順調なはずなのに苦しかった。大学医師を辞めて勝ち方を変えた話
こんにちは、ミニパパです。20年以上の臨床経験を経て、現在は製薬企業でメディカルアフェアーズに携わっています。このブログでは、医師のキャリアの選択肢や、働く中での迷いについて、自分の経験をもとに発信しています。
外では順調に見えていた。
でも、そのことを心から喜びきれなくなっていた。
今日は、その感覚がどこから生まれたのか、そして大学を辞めて製薬企業に転職するまでに何を考えていたのかを書いてみます。
このまま大学医師として進むのだと思っていた
大学医師として、このままキャリアを積み上げていくのだと思っていた。
臨床を続け、研究を続け、学会発表を重ね、論文を書き、評価を得ていく。若い頃は、それが自分にとって自然な道に思えていたし、実際にその道を前向きに歩いてきた。
中堅医師になった頃には、学会で奨励賞やYIAをいただき、ハイインパクトファクターの雑誌に論文がアクセプトされるなど、アカデミアの世界ではある程度かたちになる実績も積み上がっていた。周りから見れば、順調に進んでいるように映っていたと思う。自分自身もしばらくはそう受け止めていた。
それでも引っかかるものがあった
でも、その一方で自分の中には引っかかるものが残っていた。
仕事が嫌だったわけではない。臨床も研究も好きだったし、医療に深く関われることにはやりがいを感じていた。だからこそ、その引っかかりは扱いづらかった。
今振り返ると、自分のキャリアの積み上げが、家庭の中でどんな形で支えられていたのかを直視せざるを得なくなったことが大きかったのだと思う。
当時、家庭では妻が育児をほぼ一手に引き受けてくれていた。自分が学会に出て、研究を進めて、論文を書き、外で評価を得られていたのは、その支えがあったからこそだった。頭ではわかっていたつもりだったが、その重みを十分には受け止めきれていなかった。
そして、妻からそのことについて言葉を向けられることもあった。
それは、ただ責められたというより、妻なりのしんどさや不満が表に出てきたということだったのだと思う。でも当時の自分には、その言葉がかなり重く響いた。仕事では結果を出しているはずなのに、家に帰ると、自分が本当に欲しかった人生はこれだったのだろうかと迷うことが増えていった。
外では評価されている。
でも、そのことを心から喜びきれない。
その感覚は、自分で思っていた以上に大きかった。
評価されることと、納得して生きることは別だった
アカデミアの世界では、積み上げることに大きな意味がある。賞、論文、肩書き、評価。どれも努力の結果だし、そこに価値があることは今でも変わらないと思っている。
ただ、その勝ち方を続けることが、自分の望む人生と本当に重なっているのかは別の問いだった。
当時の私は、その二つをうまく分けて考えられていなかった。
評価されているのだから、このまま進むべきではないか。
ここまで積み上げたのだから、別の道を考えるのはもったいないのではないか。
そんな気持ちも確かにあった。
それでも心のどこかで、ずっと同じ問いが残っていた。
この勝ち方を、この先も続けたいのだろうか。
その問いに、はっきり「はい」と答えられなくなっていた。
製薬企業という選択肢に出会った
そこから、医局や大学に残ること以外の道を現実的に考えるようになった。開業ではない道、でも医師としての経験を活かせる道。その中で出会ったのが、製薬企業のメディカルアフェアーズという仕事だった。
もちろん、最初からすんなり受け入れられたわけではなかった。企業に移ることへの抵抗もあったし、臨床から距離ができることへの不安もあった。周囲の目も気になった。医師としての価値はどこに残るのだろう、と何度も考えた。
それでも見えてきたのは、今までと同じ勝ち方を続けることだけが正解ではない、ということだった。
転職して変わったこと、変わらなかったこと
実際に転職してからは、収入も役割も、評価のされ方も大きく変わった。医師時代と比べて年収は上がったし、キャリアの見通しや裁量にも変化があった。でも、今振り返って一番大きかったのは、そうした表面的な変化だけではなかった。
いちばん大きかったのは、自分の人生の中で、勝ち方を選び直していいのだと知れたことだった。
前半で通用してきたやり方を、そのまま後半も続けなくていい。積み上げてきたものを否定しなくても、次の戦い方に移っていい。そう思えるようになったことは、自分にとってかなり大きな変化だった。
『人生後半の戦略書』を読んで、少し肩の力が抜けた
その感覚を言葉にしてくれた本のひとつが、アーサー・C・ブルックスの『人生後半の戦略書』だった。
この本を読んだとき、私は少し肩の力が抜けた。何かを手放す話としてではなく、人生の後半には後半に合った強みの使い方がある、という話として受け取れたからだ。違和感を持つことは、失敗のサインではなく、戦い方を変えるサインかもしれない。そう思えるだけで、自分の中の迷いが少し整理された気がした。
製薬企業への転職を勧めたいわけではない
もちろん、製薬企業に移ればすべてが解決するわけではない。別のしんどさはあるし、新しい環境には新しい難しさがある。肩書きが変わったからといって、自分の納得感が自動的に満たされるわけでもない。
それでも、自分のキャリアを「これしかない」と思い込まなくなったことには大きな意味があった。
私はこのブログで、製薬企業への転職をただ勧めたいわけではない。大学に残る道にも価値があるし、開業にも、別の働き方にもそれぞれ意味があると思っている。
ただ、医師のキャリアがひとつの正解だけで語られすぎることには、少し息苦しさを感じてきた。だからこそ、医師のキャリアを「正解探し」ではなく、「選び直し」として考える材料を、この場で少しずつ書いていきたいと思っている。
もし今、うまく名前のつかない違和感があるなら
もし今、今の働き方にうまく名前のつかない違和感があるなら、それは失敗のサインではなく、次の戦い方を考える時期なのかもしれない。
次は、なぜ製薬企業のメディカルアフェアーズという仕事が、自分にとって現実的な選択肢になったのかを書いてみたい。医師としての経験が、企業の中でどのように意味を持つのかについても、少しずつ整理していこうと思う。
今日のおすすめ
アーサー・C・ブルックス『人生後半の戦略書』
前半の勝ち方を、そのまま後半に持ち込まなくていい。そう考えるうえで、自分にとって助けになった本だった。
詳しくは、出版社の紹介ページを見る。
